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コラム「発達障害者支援法について」

日本自閉症協会の情報誌『いとしご』No.87でも取り上げられている、「発達障害者支援法」と、それに関連した、千葉県の「障害者差別禁止条例」制定の動きに関して、取り急ぎ情報を提供いたします。

「発達障害者支援法」について

「発達障害者支援法」という言葉を聞いた方も少なくないと思います。本当は、今回の国会で法案が提出され可決される予定でしたが、年金関係の審議で混乱し、先送りになってしまいました。しかし、次期国会では、審議・可決される予定です。

この法案は、「自閉症、アスペルガー症候群とその他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動障害その他にこれに類する脳機能障害」(第二条)者に対する「生活全般にわたる支援を図り、もってその福祉の増進に寄与すること」(第一条)を目的としたもので、党派を超えた国会議員たちが提出したものです。

法案では、国及び地方公共団体の責務として、

  1. 発達障害児の早期発見
  2. 就学前や学校、その他における適切な発達支援、就労支援や生活等の支援、家族に対する支援
  3. 保護者の意思の尊重
  4. 医療、保険、福祉、教育、労働、警察、消費生活に関する担当部局などの関連諸機関の密接な連携確保と協力体制の整備

があげられています(第三条)。その上で、早期の発達支援、保育、教育、放課後児童健全育成事業の利用、就労の支援、地域生活での生活支援、権利擁護、家族の支援などの項目が設定され、都道府県、市町村の果たすべき責務が条文化されています(第五~十三条)。さらに、発達障害者を支援するための民間団体の活動支援(第二十条)や、国民に対する広報・啓発活動(第二十一条)、専門的知識を有する人材の確保、専門性を高めるための研修などの実施(第二十二・二十三条)などが、国及び地方公共団体の果たすべき責務としてあげられています。

法律の条文ですので読みづらいですが、この法案が、成立すれば、私たちが国や地方公共団体に様々な要望を提出する際の根拠ができることになり、自閉症児者を取り巻く環境の改善にとっては、画期的なものとなるわけです。また、この法案の大きな目玉は、従来福祉の対象からははずされてきた、知的障害者の枠ではくくれない発達障害児者も対象とされている点です。二重の意味でまさしく画期的なものです。

日本自閉症協会では、「英国自閉症協会が英国政府と、TEACCHが州政府との折衝で自閉症に特化した支援システムを実現しておりますが、日本自閉症協会としても日本における支援システムを実現させていきたい」との基本的認識に立って、本法案の成立を強く働きかけてきました。

日本自閉症協会福岡県支部北九州市親の会※1といたしましても、法案成立に積極的に賛同していくとともに、成立の暁には、絵に描いた餅にならないよう、行政を含め関連諸機関に、法律を論拠としながら、支援体制の確立を要望していくことが重要だと考えております。それとともに、地域社会へも積極的に理解と支援を求めていくことが私たちの責務だと考えます。

本法律の第四条には(国民の責務)と題され次のようにうたわれています。

「国民は、発達障害者の福祉について理解を深めるとともに、社会連帯の理念に基づき、発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努めなければならない。」

一般国民に対してもこんなことを迫っているのですから、親や近親者である私たちは、もっともっとがんばらなくてはなりませんね。彼ら・彼女らと、共に生き生きと暮らせる社会の実現を目指して!

伊野 憲治

「発達障害者支援法案」は、(社)日本自閉症協会の以下のホームページに全文がアップされております。また、法案に対する意見が求められています。

http://www.autism.or.jp/hs-siennhou/index.htm(現在は存在しないページです。)
(現在の日本自閉症協会の発達障害者支援法関連ページはこちらです。http://www.autism.or.jp/hs-sienhou05/index.htm)

千葉県の「障害者差別禁止条例」について

「障害者差別を条例で禁止・・・全国で初、千葉県で来年度にも」

これは、『読売新聞』(2004年7月8日付)記事の見出しです。「へえ~」って感じの人も多いかと思います。しかし、実は、「へえ~へえ~へえ~・・・」ぐらいの重みのあることです。たとえ条例が来年度にできなかったとしても・・・。

先進国ではあたりまえの「障害者差別」を禁ずる法律ですが、日本では、まだ立法化されていません。それを、千葉県が、率先して制定しようとしています。それだけでも、十分に意味のあることで、ぜひ、実現をと願っていますが、知事の任期はあと1年、果たして可能なのかと危ぶまれてもいます。でも「へえ~・・・」なのは、この条例の制定は、千葉県の「第三次千葉県障害者計画」のほんの一部に過ぎないからです(目玉の一つではありますが)。

201ページに及ぶこの計画書には、「千葉県障害者地域生活づくり宣言」がまず掲げられています。そこでは、

  1. 誰もが
  2. ありのままに・その人らしく
  3. 地域で暮らすことができる

「新たな地域福祉像」という理念が打ち出され、具体的に以下の4点の目標が提示されています。

  1. 障害の重い人でも地域で暮らせるよう、重度・重複障害者や医療ケアの必要な障害者が利用できるグループホームの創設を検討し、グループホームを支援する支援ワーカーを配置します。
  2. 「障害者就業支援キャリアセンター」を充実し、一人でも多くの障害者が、その人に合った職に就けるよう支援します。
  3. 誰にでもいつでも、福祉サービスの利用や権利侵害等について相談できる「中核地域生活支援センター」を立ち上げ、様々な社会資源の結びつきを強め、地域の力を総動員して障害者の生活を支えます。
  4. 障害者の権利を守るため、国に障害者差別禁止法の制定を働きかけるとともに、千葉県独自の条例の制定を全国のトップを切って検討します。

さらに、この「宣言」では、地域で暮らす障害者をバックアップできるように、施設や病院のあり方も変えていかなければならないとも指摘されており、「一人ひとりの利用者について支援プログラムをつくり」「希望する利用者全員が地域に住めるように支援を行う」といった方針のもと、「今後2年間で100人程度の地域への移行を実現したい」と数値目標まで掲げられています。このような基本理念・計画にたって、計画書では、「健康と生活支援」「雇用・就業」「教育・育成」「生活環境」「情報コミュニケーション」「スポーツ・文化」「啓発・広報」と分野別の施策が示され、各分野における数値目標が提示されています。

こうした、夢のある壮大な計画の一部として「障害者差別禁止条例」の制定が位置づけられているのです。条例の制定は確かに画期的です。マスコミも飛びついてくれます。しかし、堂本知事は、記者会見で、なぜすぐに条例の制定に踏み切らないのかとの質問に答え、「条例だけができて、そのためにほかの施策がなければあまり効果はないんじゃないか」と答えています。その通りだと思います。ですから、条例の制定とともに最も注目されるべきは、「第三次千葉県障害者計画」なのです。

さらに、重要なのは、この計画が作成されたプロセスです。白紙の段階から、当事者5人を含む策定作業部会やタウンミーティング等での議論が重ねられ、そうした意見聴取をへて計画は策定されました。作業部会の委員の一人として、(社)日本自閉症協会千葉県支部の支部長であり、旭中央病院脳神経外科部長をしておられる大屋滋さんも加わっています。

通常、こうした福祉政策全般にわたるマスター・プランでは、あまり触れられないのですが、この計画書では、自閉症に関しても随所で触れられています。26ページでは、発達障害、高次機能障害(高機能自閉症と異なります)などの福祉対策の現状が簡単にですが触れられているほか、31ページでは、LDやADHD児などの、生活や学習面での不適応への対応が課題となっていると指摘されてもいます。また、「特別支援教育」への転換にあたって、特別支援教育コーディネーターの養成、盲・ろう・養護学校等の機能の充実、障害児本人や家族を尊重した取り組みの必要性が述べられています。

「健康と生活支援」の節(86~87ページ)では、障害特性に応じた個別施策の重要性が指摘され、その最初に「自閉症」がとりあげられています。そして、既に設置されている「自閉症・発達障害支援システム検討部会」において、

  1. 自閉症・発達障害の早期発見・早期療育システムのあり方
  2. 学校教育
  3. 地域生活支援
  4. 自閉症に対応した施設サービス
  5. 人権擁護と啓発
  6. 自閉症・発達障害支援センターの充実

といった支援システムについての検討が進められており、その提言に基づいて支援システムの構築を目指すと明示されています。このほか、同項目の8番目には「発達障害」として、LD・ADHD・高機能自閉症があげられ、「教育施策と連携を図りつつ、福祉的対応の必要性について検討します」とされています。

これに加えて、興味深い指摘としては、視覚による性教育の必要性(86ページ)、「周囲の人に障害者であることを示し、必要な支援を要請できるカードの作成」についての検討(137ページ)などがあります。

「何だ、これだけか」と思われるかもしれませんが、それでも、マスター・プランに明示的に盛り込まれたという意義は、少なくありません。

重要なのは、こうした千葉県における進展が、ある日突然、天からもたらされたものではないということです。(社)日本自閉症協会千葉県支部サイトを見れば、いかにこれまで支部として根気よく行政に対し要望書を提出すなどの働きかけを行ってきたかがわかります。地道な積み重ねがあっての結果ということです。「へえ~」には、それなりの努力があったわけです。

北九州市では、平成8年に「北九州市障害者施策推進基本計画」が策定され、現在の福祉政策が実施されております。この計画は平成17年度までの10年間を対象としてものです。ですから、現在は、次の計画が策定されようとしている時期に当たります。

子どもに対する日々の療育・教育に追われる毎日ですが、(社)日本自閉症協会福岡県支部北九州市親の会※1としても、今後、積極的に行政に対しても働きかけて行きたいと考えております。多くのご意見をお寄せください。

伊野 憲治

(社)日本自閉症協会千葉県支部サイトは、http://www.interq.or.jp/japan/aschiba/index2.htm
をご覧ください。

※1 現北九州市自閉症協会